好きになるには理由があります

「英孝の二人乗りの自転車があれば、港まで速かったのにな」
と陽太は言うが、

「いや、あれ、結構むずかしいんですよ」
と深月は答えた。

 すでに職場で、みんなのオモチャと化してるが、あの自転車……と思っていると、陽太が言ってくる。

「しかし、お前の場合、お父さんが二人居るからな。
 どっちにも挨拶しなきゃいけないから緊張するな。

 できるなら、いっぺんに済ませたいが。

 でも、大切なことだからな」
と言って、陽太は手を握ってきた。

 ずいぶんとスムーズに握るようになったな、と深月は思う。

 こうして段々と図に乗って……

 失礼。

 調子に乗って……

 いやいや、違うな。

 慣れ親しんできて?

 自然に手をつないだり、キスしたりするようになるのだろうかな、恋人同士というのは、と深月は思った。

 自分たちは、その過程を一足飛びに飛び越えていっていたと思っていたのだが。

 なにも飛び越えてなかったうえに、どんどん後退していっている、と昨日までは思っていた。