稽古が終わり、深月は陽太と二人で帰っていた。
清春も一緒に出ようとしたのだが。
いよいよ近くなった本番当日の祭事の打ち合わせで、おじさんたちに呼び止められたので居なかった。
「杵崎さんはもう帰られたんですか?」
と深月が訊くと、
「いや、なんかノリさんに呼ばれてたから、捨ててきた」
と陽太は言う。
……いいのか、それ、と思ったあとで、沈黙する。
記憶を取り戻したことを言い出せないことが気にかかっているせいか、上手く会話が進まない。
そのとき、近くのマンションから万理が出てきた。
こちらを見て、
「今日はもう上がり~?
お疲れ~」
と言ってくる。
万理は手に、大きなインスタントコーヒーの瓶を持っていた。
それを見ながら、
「お疲れ様です。
また戻るんですか?」
と深月が問うと、
「うん。
旦那、まだ帰ってないから。
ひとりで家に居ても寂しいじゃん。
松村さんがコーヒーはインスタントの方が好きとか言ってたから、持ってって淹れてあげようかと思って」
と万理は言う。



