好きになるには理由があります

 


 どうしよう。
 思い出してしまった……と壁際に立ち、陽太の方を見ながら、深月は固まっていた。

 さっき、鼻先で陽太の匂いを嗅いだとき、思い出したのだ。

 あの晩、陽太との間に、なにもなかったということを。

 おじさんたちに習いながら、どんどん、と大地を踏みしめるように力強く舞う陽太を見ながら、深月は思う。

 支社長はまだ思い出していないのだろうか。

 思い出してないんだろうな……。

 思い出したら、私に関わる必要はないと気づいて、離れてしまうはずだから。

 ……まずいな。

 いやいや、なにもまずくはないか。

 これで支社長も正気にかえってくれるはず。

『あの晩、なにもなかったみたいですよ』

 そう言えば。