好きになるには理由があります

「あ、はい。
 じゃあ、高岡さんの分、お運びしましょうか」
と言って深月はキッチンに向かった。

 だが、陽太は、
「いや、今はいいらしいから、下船するとき、忘れずに渡そう」
と言う。

 深月が棚の引き出しを開け、デッキのテーブルを拭くためのフキンを探していると、グラスを取ろうとしたらしい陽太の腕が深月の鼻先を通った。

 陽太の匂いと体温を感じる。

 どきりとした深月だったが、ふと頭をよぎったものがあり、それを確かめるためにベッドの方を見た。

 そして、再び、陽太を見上げる。

 そのまま考えごとをしながら、陽太の顔を見つめている間、陽太はグラスをつかんだまま止まっていた。

 やがて、陽太が口を開く。

「……やっぱり飛び降りてもらおうか」

 また怪しげなことを口走る陽太に、は? と深月は訊き返した。