好きになるには理由があります

 



 深月は陽太に手を引かれ、近くの漁港に停泊していたクルーザーに乗り込んだ。

 陽太は、すぐに出航する。

「着くまで、好きな酒でも呑んどけ」
と操舵室から陽太が言ってきた。

 深月も操舵室に入りながら、
「いえいえ。
 船長が呑まないのに、私が呑めませんよ」
と言う。

「……お前まで船長言うな」
と言われてしまったが。

 いや、だって、みんなが船長、船長言うからつられたんですよ……。

 そう思いながら、深月は、ちょこんと操舵席の後ろの白いソファに腰掛けた。

 此処から暗い海を見ているのもなんだか気持ちがいい。

「わかった。
 じゃあ、なにか俺のも持ってこい。

 ノンアルカクテルな」
と前を見たまま、陽太が言ってくる。

 はい、と深月は笑って、立ち上がった。

 そのまま操舵室を出かけて、
「ところで、何処に行くんです?」
と振り返る。