好きになるには理由があります

「我々が入ってきたとき、みんな、身を屈めたり、新聞を広げたり、観葉植物の陰に入ったりしたからですよ」

「おそろしい喫茶店だ……」
と陽太は呟くが。

 深月は、いや、此処に入ろうと言った時点で、想像ついてましたけどね、と思っていた。

 此処は神楽のみんなが寄合所のように集まる場所だからだ。

「珈琲飲んだら出るか。
 よそに行こう」
と言った陽太は、ふと、カウンターの向こうを見たようだった。

「鬼が豆挽いてる……」
と陽太は呟く。

 神楽の鬼のひとりが、ガーッと豆を挽きながら、こちらを見ていた。