レトロな雰囲気の漂う、感じのいい喫茶店に、陽太は満足したようだった。
「こういうのが住宅街にあるっていいな」
と窓辺の席に座り言う。
「旅行の計画でも立てるか」
機嫌よくそんなことを言い出すので、深月は慌てて身を屈めて小声で忠告した。
「しっ、この喫茶店は危険です。
スパイがいます」
「……何処にだ」
と陽太が周囲を見回したとき、客たちが一斉によそを向いた。
「全員か」
と陽太は呟く。
そう。
実は、周囲は見知った顔で固められていたのだ。
張り込み中の刑事たちに包囲されているかのように。
まだ素知らぬ顔をしている客たちの顔を眺め、陽太が呟く。
「何故、気づかなかったんだろうな」



