好きになるには理由があります

「居たのか、英孝」
と思わず言う陽太に、杵崎は、

「名前で呼ばないでください。
 うっかり私情を交えそうなので」
と言ってくる。

「私情ってなんだ?」

「このボケがっ、とか支社長に言わないようにすると言うことですよ」
と言いながら、杵崎は、

「印鑑押せてません、此処」
と書類を陽太に見せる。

 深月が横から覗き込むと、なるほど、少しかすれて押印されている。

 ……細かいな、と深月が思ったとき、陽太も、
「細かいな」
と呟いていた。

「社内のちょっと回すだけの書類じゃないか」

「今度から気をつけてくださいね」
と陽太の弁解はまったく聞かずに注意して、杵崎は出て行く。

 閉まった扉を見ながら深月は言った。

「杵崎さんって、こだわりどころが人と違いそうな人ですよね」