好きになるには理由があります





「納得がいきません」
と深月は帰りに乗せられた船で訴えた。

「嫌がらせされたのは私なのに、一宮さんになにかすると、百倍返しにされるらしいよって噂が社内を駆け巡ってて。

 私、今まで温厚な一宮さんで通ってたのに。

 社内回っても、みんな、なんか苦笑いして遠巻きに私を見てるんですよっ」

「まあ、おかげでこれ以上、被害は出ないだろ。
 お前に言い寄る男も減りそうだし、よかったじゃないか」
と陽太は言う。

「源氏物語でいえば、帝の許に渡れないよう、汚物をまかれた桐壺が、そのまま、つかんで、相手に撒き返したみたいなもんだろ」

「……(はかな)さの欠片もないな」

 桐壺の更衣からは程遠い、と今日は一緒に船に乗っていた杵崎が呟く。

 三人で軽く船で夕食をとってから、神楽の練習に行くのだ。

「杵崎さん、誘ってみてください。
 絶対、杵崎さん、神楽に興味ありますから」

 そう深月が陽太に頼んだのだが、
「神楽はともかく、デカイ船でサンセットクルーズは悪くないな」
と杵崎もすぐに承諾した。