「俺、ここを出ていくことにした」

その瞬間、私たちの間に大きな風が吹き抜ける。


「そう、なんだ」

私は平静を装いながらも、無意識に視線を下に向けていた。


この街に来て、たくさんの人と出逢う回数が増えるほど、たくさんの人の背中も見送ってきた。

誰かに急かされるわけでもなく、みんな自分で決めてこの場所から出ていく。

そして彼もまた、自分で決めた。

私に止める権利なんてない。



「お前はどうすんの?」

「………」


自分の選択はまだずっと先のことだろうと考えないようにしてきた。


この街はとても暖かくて、優しくて、私を傷つける人はいない。

できるならずっとこの場所で、叶うなら彼と一緒になんて思ってきたけれど、私は最初から分かっていた。

彼はそんなことを望まないだろうと。

私よりも先に、ここを出ていってしまうだろうと、出逢った時から分かっていた。