図書室脇の大扉からテラスに出ると、テーブルと椅子が用意されていた。
執事が椅子をもう一つ置き、給仕達が皿を並べ直している。
果物の籠と丸パンの盛られた籠がテーブル中央に置かれた。
「どうぞこちらへ」
執事が引いた椅子にエミリアは座った。
横に並ぶようにエリッヒが席に着く。
正面には花が咲き誇る中庭の庭園が広がり、朝日に輝く南側の宮殿の屋根がまぶしい。
脇のテーブルで、執事がオレンジを搾っている。
エリッヒのカップにはホットミルクと黒い液体が注がれた。
鼻をくすぐる良い香りが漂ってくる。
「それはなんですの?」
「ああ、これはコーヒーという飲み物だよ」
「コーヒー?」
「東洋からもたらされた新しい飲み物だね。豆を焙煎して粉にしたものにお湯を注ぐとこうした黒い液体ができるんだ。見た目はまずそうだけど、これがまた香りが良くてね。ミルクに合うんだ」
「わたくしにもいただけるかしら」
エリッヒは指を立てて給仕長に合図した。
カップが用意され、エミリアにもコーヒーが注がれた。
「俺はミルクと砂糖を入れるんだが、君は?」
エミリアはカップから立ち上るかぐわしい香りを楽しんでいた。
「このままでもよろしいのでしょうか」
「とりあえず、味わってみたら」
エリッヒにうながされて一口味見してみた。
「まあ、なんという苦さ。まるで泥水じゃありませんか。これがおいしいなんて、やっぱり嘘でしたのね」
「泥水か」
笑うエリッヒにすました顔でエミリアが言った。
「あなたに泥の中に押し込まれましたからね。懐かしい味ですわ」
「あれは仕方がなかっただろう」
「分かってますわ。助けてくださって感謝してますもの」
エリッヒは朗らかに笑いながら、また給仕長に合図した。
「ミルクと砂糖を入れるとおいしくなるよ。嘘じゃないから試してごらん」
給仕長がポットから勢いよくホットミルクを注ぐ。
エミリアは白く濁った液体に砂糖を二杯入れた。
軽くかき混ぜてもう一度味見をしてみた。
「あら、本当ですのね。こんなにおいしい飲み物は初めてですわ」
だろう、とエリッヒもうなずきながらカップに口をつけた。
「東方貿易がもたらした豊かな文化だろ。甘い平和を象徴する苦い飲み物ってわけさ」
うまいこと言ったつもりなのだろうか。
あえて澄ました顔で受け流していると、エリッヒが苦笑を浮かべた。
エミリアもつい微笑みを返してしまった。
執事が椅子をもう一つ置き、給仕達が皿を並べ直している。
果物の籠と丸パンの盛られた籠がテーブル中央に置かれた。
「どうぞこちらへ」
執事が引いた椅子にエミリアは座った。
横に並ぶようにエリッヒが席に着く。
正面には花が咲き誇る中庭の庭園が広がり、朝日に輝く南側の宮殿の屋根がまぶしい。
脇のテーブルで、執事がオレンジを搾っている。
エリッヒのカップにはホットミルクと黒い液体が注がれた。
鼻をくすぐる良い香りが漂ってくる。
「それはなんですの?」
「ああ、これはコーヒーという飲み物だよ」
「コーヒー?」
「東洋からもたらされた新しい飲み物だね。豆を焙煎して粉にしたものにお湯を注ぐとこうした黒い液体ができるんだ。見た目はまずそうだけど、これがまた香りが良くてね。ミルクに合うんだ」
「わたくしにもいただけるかしら」
エリッヒは指を立てて給仕長に合図した。
カップが用意され、エミリアにもコーヒーが注がれた。
「俺はミルクと砂糖を入れるんだが、君は?」
エミリアはカップから立ち上るかぐわしい香りを楽しんでいた。
「このままでもよろしいのでしょうか」
「とりあえず、味わってみたら」
エリッヒにうながされて一口味見してみた。
「まあ、なんという苦さ。まるで泥水じゃありませんか。これがおいしいなんて、やっぱり嘘でしたのね」
「泥水か」
笑うエリッヒにすました顔でエミリアが言った。
「あなたに泥の中に押し込まれましたからね。懐かしい味ですわ」
「あれは仕方がなかっただろう」
「分かってますわ。助けてくださって感謝してますもの」
エリッヒは朗らかに笑いながら、また給仕長に合図した。
「ミルクと砂糖を入れるとおいしくなるよ。嘘じゃないから試してごらん」
給仕長がポットから勢いよくホットミルクを注ぐ。
エミリアは白く濁った液体に砂糖を二杯入れた。
軽くかき混ぜてもう一度味見をしてみた。
「あら、本当ですのね。こんなにおいしい飲み物は初めてですわ」
だろう、とエリッヒもうなずきながらカップに口をつけた。
「東方貿易がもたらした豊かな文化だろ。甘い平和を象徴する苦い飲み物ってわけさ」
うまいこと言ったつもりなのだろうか。
あえて澄ました顔で受け流していると、エリッヒが苦笑を浮かべた。
エミリアもつい微笑みを返してしまった。


