恰幅の良い老人が椅子からゆっくりと立ち上がると机を回ってエミリアのそばまでやってきた。

「エミリア殿、遠路はるばるご苦労であった。着替えと部屋を用意させるがゆえ、ゆっくりと休まれるが良い。慣れない土地で不安もあろうが、困ったことがあれば、何でも言ってくだされよ」

 思いがけないあたたかい言葉にエミリアは笑顔で礼を述べた。

「ありがとうございます」

「早く怪我が治ると良いな。医者の手配もさせようではないか」

 シューラー卿が皇帝に言上した。

「陛下、この後、新任大使達との会議がございますゆえ、お支度を」

「わかっておる」

 皇帝は自らドアを開けると、隣の部屋へ行ってしまった。

 入れ替わりに執事が入ってくる。

 シューラー卿が指示を与えた。

「こちらのエミリア殿に部屋と着替えの用意を」

「かしこまりました」

 執事はシューラー卿に一礼して、エミリアを廊下へと促した。

 拝謁が終わってエミリアは緊張から解放された。

 急に膝が震え出す。

 皇帝は穏やかな人物のようだったが、やはり高慢なシューラー卿には見下されていることは明らかだった。

 これから自分がここで何をするのか、うまくやっていけるのか。

 分からないことだらけで不安が募る。

 命を狙われることがないだけましかもしれない。

 エリッヒに会いたい。

 エミリアは冷たい砂岩の壁にふれながら執事の後について階段を上っていった。