◇ 拝謁 ◇

 隊長から儀典官に引き継がれて、エミリアは宮殿の中に招き入れられた。

 政務宮殿は新しく造営された建物らしく、天井が高く、窓も大きく作られていた。

 壁には絵画やタペストリーが掲げられ、廊下には古代ローマ時代からの彫刻が並んで王女を出迎えていた。

 途中から武骨な石造りの建物に変わった。

 こちらは古い城塞時代の建物らしく、窓は弓を撃つための狭間しかなく、昼でも薄暗い。

 どこからか雨が染みこんでいるのか、洞窟の中のように湿っぽくひんやりとしている。

 カビくさくて息が詰まるようだ。

 巨大な宮殿を支える太い円柱が無数に並ぶ廊下に足音だけが響く。

 深い森に迷い込んでいくような感覚に襲われる。

 蝋燭の炎に導かれるように廊下を進んだところで、大きな扉に突き当たった。

 儀典官が仰々しく告げた。

「アマトラニ王国よりエミリア・ファン・ラビッタ・オレ・アマトラニ様御到着でございます。お取り次ぎを願います」

 扉が開き、中では女官が待ち受けていた。

 母親のような歳の女官と、見習いなのかまだ十代前半と思われる少女だった。

 年上の女官は付き添うだけで若い女官に任せているようだ。

「こちらへどうぞ」

 儀典官から若い女官へ引き渡されて、エミリアは扉の奥へ進んだ。

 そこは少し広い空間で、先ほどの政務宮殿ほどではないが、天井が高く、窓も大きくなっている。

 こちらも新しい建物らしく息苦しさは感じられない。

 カビくささから解放されてエミリアはふうっと息を吐いた。

 さっきからどれくらいどこを歩いてきたのかまるで分からなかった。

 ナポレモの城館とは比べものにならない規模だ。

 廊下に並ぶ豪華な装飾品の数々に目を奪われながらエミリアは女官の後をついていった。

 ひときわ大きな扉の前に立たされた。

 扉には青地に金で縁取られた鉤爪鷲の紋章が描かれている。

 ぎこちない動きをしながら若い女官が手で合図をした。

 ここで待てということらしい。

 中年の女官と二人で廊下で待つ。

 いったん扉の中に消えて、戻ってきた女官がエミリアを中へ促した。

「陛下がお待ちでございます。どうぞ」