床屋の亭主はエミリアを見て驚いていた。
「あんた、いったい何者だね。この辺では見かけない格好だね」
裾の破れた青いドレスに無造作に束ねられた長い金髪。
高貴なようで、ちぐはぐな格好だ。
だが、風にそよぐ豊穣な小麦畑のように輝き波打つ髪の美しさは隠せない。
王女だと名乗るわけにもいかず、曖昧にごまかすしかない。
「都へ向かうところです」
「へえ、そうかい、それにしてもいい髪質だな」
幸い、亭主は髪にしか興味がないらしく、それ以上の詮索はしなかった。
床屋が女の髪にブラシをかけながら言った。
「あんた、この髪売らないか」
「売るとは、どういうことですか」
エミリアが尋ねると、床屋が店先の棚の上を指した。
「ほらよ、あんなふうにカツラの材料にするってわけよ」
棚の上には様々なカツラが並んでいた。
金髪もあれば、白髪もある。
「この髪の毛ならいいカツラになるね。もちろん、散髪代はただでいいさ」
「そうですか。では、そうしてください」
あっさりとした返事に、かたわらのエリッヒが驚愕した。
「おい、馬鹿なことを言うな」
「なぜですの?」
王女の無垢さに苛立ちを覚える。
この時代、身分によって髪の長さは決められており、短髪は庶民、または修道女のものと決まっていた。
高貴な女性は髪を伸ばすのが当然であり、それは優雅さの象徴でもあった。
いくら国を追われたとはいえ、王女が短髪などありえないことだ。
それは身分を捨てるということでもある。
かといって、この場で身分を明かすような話は避けなければならない。
「大事なものだからだ」
「自分では何もできませんから。長くて鬱陶しいだけです」
返事に困っていると、いつのまにか通りがかった人たちが集まり始めていた。
馬が体を震わせたので、人の輪から連れ出さなければならなかった。
エリッヒはそれ以上何も言えなかった。
「いいですかい?」
床屋がハサミを当てる。
「どうぞ」
王女は真っ直ぐ前を見つめながら鷹揚にうながした。
首筋のあたりでバッサリと切られていく見事な金髪に、見物客達の間からため息がもれる。
広場に馬をつないで戻ってきたエリッヒだけが目を背けていた。
「あんた、いったい何者だね。この辺では見かけない格好だね」
裾の破れた青いドレスに無造作に束ねられた長い金髪。
高貴なようで、ちぐはぐな格好だ。
だが、風にそよぐ豊穣な小麦畑のように輝き波打つ髪の美しさは隠せない。
王女だと名乗るわけにもいかず、曖昧にごまかすしかない。
「都へ向かうところです」
「へえ、そうかい、それにしてもいい髪質だな」
幸い、亭主は髪にしか興味がないらしく、それ以上の詮索はしなかった。
床屋が女の髪にブラシをかけながら言った。
「あんた、この髪売らないか」
「売るとは、どういうことですか」
エミリアが尋ねると、床屋が店先の棚の上を指した。
「ほらよ、あんなふうにカツラの材料にするってわけよ」
棚の上には様々なカツラが並んでいた。
金髪もあれば、白髪もある。
「この髪の毛ならいいカツラになるね。もちろん、散髪代はただでいいさ」
「そうですか。では、そうしてください」
あっさりとした返事に、かたわらのエリッヒが驚愕した。
「おい、馬鹿なことを言うな」
「なぜですの?」
王女の無垢さに苛立ちを覚える。
この時代、身分によって髪の長さは決められており、短髪は庶民、または修道女のものと決まっていた。
高貴な女性は髪を伸ばすのが当然であり、それは優雅さの象徴でもあった。
いくら国を追われたとはいえ、王女が短髪などありえないことだ。
それは身分を捨てるということでもある。
かといって、この場で身分を明かすような話は避けなければならない。
「大事なものだからだ」
「自分では何もできませんから。長くて鬱陶しいだけです」
返事に困っていると、いつのまにか通りがかった人たちが集まり始めていた。
馬が体を震わせたので、人の輪から連れ出さなければならなかった。
エリッヒはそれ以上何も言えなかった。
「いいですかい?」
床屋がハサミを当てる。
「どうぞ」
王女は真っ直ぐ前を見つめながら鷹揚にうながした。
首筋のあたりでバッサリと切られていく見事な金髪に、見物客達の間からため息がもれる。
広場に馬をつないで戻ってきたエリッヒだけが目を背けていた。


