◇ 王女と執事 ◇
城館内では、明日の成年の儀に向けて祝宴の準備がおこなわれていた。
王女付きの執事が用人達に声をかけて回る。
「大広間の蝋燭千本は用意できているか」
「はい、シュライファー様。薪もすでに運び入れております」
厨房から料理長が顔を出す。
「シュライファー様、クジャクの塩漬けが届きました」
「ツルはどうなっている?」
「なかなか保存状態の良いものが入っております」
「ブリューガー家から砂糖細工の献上があったと聞いているが」
「はい、東洋の風変わりな船の形をしておりまして、明日は国王陛下もきっとお喜びのことと存じます」
「ぬかりないようにな」
料理といえば魚の干物か獣肉の丸焼きぐらいしかないこの時代に、砂糖細工は黄金に匹敵すると言われる貴重品だ。
城下の貿易商人からの献上品が間に合って明日の祝賀会で披露できるのは執事としても感慨深いものであった。
シュライファーは城下に捨てられていた赤ん坊であった。
教会に保護され、慈悲深い王妃によって設立された孤児院で養育された彼は、幼いころから聖句の暗唱や外国語の習得に才能を発揮し、十八歳の時に司祭の推薦で若くして王室付きの家庭教師として参内することとなった。
以来八年、兄君二人の学問はもちろん、当時十歳になったばかりだったエミリアの躾や教養指導も任されてきた。
シュライファーにとっては養母とも言える王妃に対する恩義から王家への忠誠は絶対であり、王女の教育は恩返しでもあった。
明日の祝祭は彼にとってその集大成とも言える聖なる日であった。
仕事は山ほどあって一息つく暇もない。
しかも、シュライファーには、今夜はまだ大切な用事が残っていた。