酒場のオヤジを適当にあしらいながら男が城館前の広場までやってきたとき、ちょうど正面の扉が開いて、王家の紋章旗を掲げた役人が現れた。

 人々が続々と集まってくる。

「おい、マウリス様だぞ」

「なんだ、何かのお触れか」

 役人が羊皮紙を広げ、仰々しく布告を読み上げはじめた。

「明日、聖フラメンテの日は親愛なる王家御息女エミリア・ファン・ラビッタ・オレ・アマトラニ様の成年の儀を執り行う神聖なる祝日である。よって、すべての自由市民および王国内における農民達の労働は偉大なる国王陛下のお慈悲により免除となる」

 広場に居合わせた人々から一斉に歓声がわき起こった。

「明日はこの広場において身分にかかわらずすべての者に食事が振る舞われる。おまえたちも王女様の晴れの日を共に祝うが良い」

「なんとありがたいことか。国王陛下万歳。エミリア王女様万歳!」

 男はとなりにいた老人にたずねた。

「聖フラメンテの日っていうのはなんですか」

「おまえさん、よそから来なさったのかね。聖フラメンテといえば、このナポレモの守護聖人よ。昔疫病が流行ったときに百日間飲まず食わずでお祈りを捧げて街の子供達をみな救ってくださったという言い伝えがあってな。だからよ、この街では成人のお祝いをするのが聖フラメンテの日ってわけさ。王様もさぞお喜びだろうよ。なんていったってよ、三年ごしのお祝いだからな」

「三年?」

「おう、そうよ。実はな、三年前にも疫病が流行ったことがあってな。王女様の兄君お二人が亡くなられて、しまいにはあの慈悲深い王妃様までが天に召されてしまったんじゃよ。わしら市民にとっても本当に辛いことだったものよ」

「ほう、それはお気の毒に」

「エミリア王女様も病に伏せってしまわれてな。本来ならば十五歳で成年の儀をおこなうはずだったんだが、それどころではなくなってしまったんじゃよ。幸い、命は取り留めたものの、最近まで、起き上がるのも難しかったんだそうな」

「ほう、それで今になって王女様のお祝いの儀式がおこなわれるってことか」

「あんたもついてなさる。なんせ、明日は盛大なお祭りだっていうからな。よそから来たあんたも一緒にお祝いするといいさ。ごちそうにありつけるからのう」

「そいつはありがたいな」