エミリアは声をひそめた。

「それはそうでしょう。ブリューガー家を仲介したのはシュライファーなのですから。でも、それは東方貿易や、文化学問に興味があったからで、あの事件とは関係のないことですわ」

「しかし、このままでは共犯者として処刑されてしまいますぞ」

 エミリアは伯父との間合いを詰めて見上げた。

「わたくしが直接シュライファーに尋ねたいのですが」

「いくら姫様でも、それは無理ですな。地下牢に閉じ込められておりますゆえ」

「シュライファーはわたくしがもっとも信頼する忠義の人です。反逆などあり得ません」

 なるほど、と伯父が深くうなずいた。

「お嬢様をこれほどご立派に育て上げるとは、シュライファーという男、なかなかの御仁と見た。わしが地下牢から連れ出して、我が領内にかくまうことといたしましょう」

「そんなことができるのですか」

「これでも誇り高きアルフォンテ十二騎の筆頭ボシュニア公爵家の名代でございますぞ」

 またこの話だ。

「それは分かっておりますから、早く行ってやってくださいな」

「では、早速。御達者で、お嬢様」

「おじさまも、いつまでもお元気で」

 ナヴェル伯父はまた窓から出て行った。

 壁を伝って下りていく伯父の姿が闇の中に見えなくなるまで王女は見送った。