椎名深影といえば、助ける素振りはなく、ただ腕を組み私たちの様子を傍観しているだけ。
「ふーん……、なかなか可愛い顔してんな」
男が私の肩を抱き、強引に引き寄せる。
顔をよく見るためか、私の顎を持ち上げてきたので、キッと鋭く睨みつけた。
「気の強そうな目も好みだ」
「お前……、誰の許可取ってそいつに触ってるんだ?」
突然、背後からかけられた低い声に、男が私ごと振り返る。
「誰だ? 知らねえ顔だな」
フロアの奥から現れたのは、眼鏡をかけたままの藤川。
そして、その斜め後ろにいたのは……
「さっ、佐々木海里!?」
男が彼の姿を確認した途端、青ざめ始め、おろおろと視線を辺りに泳がせる。
「助けは来ない、俺の仲間が今頃ぶっ潰してるはずだ」
冷たく暗いオーラを放ち淡々と告げる佐々木海里は、なぜか丈の長い特攻服のようなものを着ていた。
黒い生地に何かの文字がシルバーの刺繍で綴られている。
文化祭の衣装なのかもしれない。
(というか藤川と佐々木海里は、喧嘩していたんじゃなかったの?)



