一刻を争うというのに、咲都も藤川も電話に出てくれない。
こんな緊急事態に、あの人たちは一体何をやっているのか。
佐々木海里と一緒にいるとしたら、もうすでに喧嘩が始まってしまった?
「あんたのツレ、誰も出ないのか?」
「……はい」
「じゃあ、俺が連絡する」
急ぎ足の状態を保ったまま、椎名深影が私の代わりに自分のスマホを耳に近づけたときだった。
「ミアちゃん!」
どこからか美愛の名を叫ぶ声が響く。
「理希? どこにいる?」
椎名深影が辺りを見回し、私の手を引く。
さっきのは、小野寺理希の声……?
人混みが不意に消えたと思ったら、そこは校舎の奥の薄暗いロビーのような場所だった。壁にいくつもの絵画が飾られている。
「その子を返せ、蒼生高」
静かな、けれど強めの声が辺りに響く。
それは私たちとは逆の方から現れた、小野寺理希のものだった。
物陰に隠れていた男と美愛が姿を見せる。



