BLACK TRAP ~あの月に誓った日~


「隠さなくていいんじゃねぇ? 海里に憧れているヤツは大勢いる」


椎名深影(みかげ)は辺りに視線を巡らせながら肩をすくめる。


彼の言うとおり、佐々木海里に憧れているのは確か。

でも今は、その気持ちが薄れかけていた。



それが藤川のせい……というのは、何だか悔しいけれど。



「あ? あいつら、まさか……」


突然、廊下の奥を見つめた椎名深影が眉をひそめ、私の手首を掴んだ。

人混みを掻き分け、走り出す。


「……何なの?」


訳がわからず、隣の男へ疑問をぶつける。


蒼生(あおい)高の奴らが紛れ込んでる。アンタの友達、連れ去られたのかもな」


真っ直ぐ前に向けた視線をそのままに、彼は答える。

そのとき、人垣の向こうに、かすかに黄色いシルエットが揺れたのが確認でき、目を見張った。



「美愛!」


思わず呼んだ名前は、周りの生徒たちの楽しそうな話し声に掻き消され。

すぐにその姿を見失ってしまった。