BLACK TRAP ~あの月に誓った日~


ちょうど私の横で立ち止まった椎名深影が、温度の低い視線をよこしてくる。


(お姫様って、嫌味?)


今の私といえば、お姫様とは程遠く。眼鏡をかけて地味な服装をしているというのに、早速気づかれたらしい。


「敵高に偵察でもしに来たか?」


まさか顔を覚えられていると思っていなかったので、咄嗟に何も答えられず。

助けを求めようと顔を巡らせるけど、ドア付近にいたはずの美愛の姿が忽然と消えていた。


「えっ、美愛……!?」


さっきのショックでどこかに逃げてしまったのか。

話しかけてきた男のことなど忘れて、廊下の端から端まで見回した。


でも。美愛のレモンイエローはどこにも見当たらなかった。


「美愛……」


どこに行ったの?

この場合、私も藤川達を追った方がいい?

それが一番安全な気がする。


こんなところで一人で待っているよりは。



「──おい、どこに行くつもりだ?」


廊下を走り出そうとした私の手首を、冷たい手が掴んだ。