BLACK TRAP ~あの月に誓った日~


オリーブ色をしたニット素材のベストが目の前にある。

半袖のシャツから伸びる腕が、私の背中にまわっていて……。

どう反応すれば正解なのか、わからない。


まるで大切な宝物を見つけたときのように、しっかりと抱きしめられているのは気のせいなのか。


彼の体温が移ってくるほど長い間。

結局私は、突き放すことも、抱きしめ返すこともできずにいた。



「……本当は桜花に行かせたくない」


その声に切なさが含まれている気がして、藤川をそっと見上げる。


「桜花には強い奴が多いからなー。あいつらの中の誰かを気に入るのかと思うと……」


私の前髪に触れ、ゆっくりとかき上げる。


「それに。俺は七瀬のこと、他の男には見せたくないんだよな」


露わになった額に、何かが優しく押しつけられる感触。


「んっ……」


額の奥がゾクゾクして、思わず小さく声が漏れてしまう。


「……何? 今の声」


それに気づいた藤川が、私の腰に片手をまわしたまま、顔を覗き込む。

どこか意地悪な視線を浴びせられ、恥ずかしさのあまり目が潤んでくる。


「可愛すぎ。……もう一回聞かせてよ」