「七瀬こそ酔ってるのか? 一瞬目を離しただけで男にさらわれるし、油断しないでもう少し気をつけろよ」
頬が火照ってきていることに勘づいたのか、藤川が私を抱きとめたまま顔を覗き込んでくる。
「藤川先輩のせいでしょ……」
整った顔が恨めしい。
暗めの紅い唇に、目が吸い寄せられてしまう。
綺麗な形の、艶のある薄い唇。
「なぁ、その呼び方、何とかならないの?」
藤川が私の髪をすきながら低い声を出す。
「何とかって?」
「別の呼び方がいい。皇世とか、……コウとか?」
「コウ……?」
不意に、昔そう呼ばれていた男の子のことを思い出した。
セイちゃんのことを傷つけていじめていた、あの男の子の名前は、確か『コウ』だった。
これで本当に、藤川の過去が決定的になってしまった。
元から意地悪な男だとは思っていたけど、本当にいじめをするタイプだとは思わなかった。
……軽く幻滅する。
「七瀬。嘘だよ、呼び方なんて別に何でもいい。ただ……、『コウ』とは絶対に呼ぶなよ」
すがるように藤川が私の瞳を見つめてきた。



