BLACK TRAP ~あの月に誓った日~


自分で額に触れてみても、特に普段と変わらない体温だったらしく。


「……チョコに何か入れた?」


恐る恐る、訊いてくる。


「リキュールをほんの少し」

「なんか、ふわふわするんだけど」


(酔ったの……!? あんな少しで?)


やけに色気のある表情で見つめてきたかと思ったら。

両頬を包むように捕らえられ、身動きが取れなくなる。


「……罠にかかったのは、俺か」


何やら呟いた藤川は、私のこめかみ辺りに顔を近づけ、柔らかいものを押し当てた。


「っ……ちょっと! 何なの?」

「チョコのお返しだけど?」

「そんなお返し、いらないからっ!」


お返しにキスなんて、軽すぎる。


「唇の方がよければ、今からやり直すよ」

「しなくていいです!」


藤川から距離を置かないと危険だと察知した私は、急いでベンチの端へ逃げる。

けれど、元々端の方に座っていたせいで、ガクッとベンチから落ちそうになってしまった。


「――危な、」


ギリギリのところで藤川が抱きとめる。


ふわりとベリーのような甘い香りに包まれ、ドキドキと鼓動が速くなっていく。