藤川の身に何かあった……?
嫌な予感がする。
「助けを求めたって無駄だよー」
男が嘲笑う。
「もう授業が始まってるから、誰も来ないし、気づかないんじゃない?」
焦らすように体の表面を撫でられ、気持ちが悪い。
これはもう、反撃するしかない。
たとえ殴られたとしても。
そう覚悟し、足に力を入れたとき――
「……っ」
突然、灰色の髪の男が後ろに仰け反り、背中を床に打ちつけた。
誰かが、背後から思い切り引き倒したらしい。
その犯人は藤川ではなく、もっと小柄な男だった。
「約束と、違うんじゃない?」
聞き覚えのある声。
……もしかして、セイちゃん?
「キラ……何だよ、ケチんなって。少しぐらい良いだろ」
キラ、って誰?
セイちゃんの名字?
「七瀬には手を出すなって、言っておいたはずだよね」
いつもの、かよわくて儚げなセイちゃんとは違う。
大きな瞳からは、ゾッとするほど冷たい感情があふれ出ていた。



