「ごめんねぇ、どうしても聞いておきたいことがあって。昼休みが終わるまでには帰してあげるから」
連れ込まれたのは、近くの空き教室だった。
強く背中を押され、扉が閉まる。
室内は遮光カーテンを閉めているのか、薄暗かった。
「ねえ、連れて来たよ。これでいいんでしょ?」
女の先輩は、私ではない誰かに声をかけた。
「――ああ。ご苦労さま」
奥に潜んでいた男が現れ、彼女に紙切れのようなものを手渡す。
受け取った女の先輩は教室の扉に手をかけ背を向けた。
「足止めはしておくから、楽しんでね」
去り際、ちらっと私の方を見て嗤った。
いい気味、と言いたげに。
――騙された。
はっきりと、そう気づいたときには、すでに背後から捕らわれていた。
「また会えたね。七瀬さん」
聞き覚えのある声だった。
ザラザラしているのに柔らかな口調。
黒髪の一部を灰色に染めた男が、私の髪をゆっくりと撫でた。



