驚く私にかまわず、藤川は平然と続ける。
「それぐらい簡単だよな、七瀬なら」
「簡、単……って」
「別に俺のことを好きでも何でもないなら、目的のためにそれぐらいするのは平気なんじゃないの、ってこと」
だけど……自分から異性に抱きついたことなんてないし。
しかも、相手は藤川だし。
「あの男のこと、知りたいんじゃなかったの?」
私の肩に落ちた髪を一房すくい、藤川は妖しく見つめてくる。
「知りたい……」
「じゃあ、できるよな」
彼に見つめられたまま、私はマグカップをサイドテーブルに置き、まるで操られるかのように藤川へゆっくりと両手を伸ばした。
藤川のことを小さな弟だと思えば、問題ないかもしれない。
革のソファがギシッと音を立てる。
ブレザーをすでに脱いでいた藤川は、白いシャツだけを身に纏っている。
背中に回した手のひらから、引き締まった体の固さが直に伝わり、一気に戸惑いと緊張が走った。
「……これで、いい?」
「駄目。もっと。それじゃ背中に触ってるだけだ」
そう言われ、仕方なく彼の胸元に頬を寄せる。
柔軟剤なのか、ベリー系の甘い香りが微かに鼻に届いた。



