*side 藤川*
「……じゃあな」
「うん。ありがとう」
気まずい空気の中、七瀬を家の前まで送り、足早に立ち去った帰り道。
我慢していた溜め息を深々とつき、前髪を掻き乱す。
──どういうつもりなんだ、あいつは。
こっちが必死で隠しているものを、見透かすようにさらりと剥がしてくる。
昔は、あんなにわかりやすかったのに。
今は全然、あいつが何を考えているのか読めない。
いつもはツンとして冷たい態度を取ってくるくせに、ごく稀に俺の言う通りに行動する。
交換条件だからって、命令されるがまま俺に抱きついたり、キスしてきたり。
無防備にもほどがある。
目を潤ませて、じっと見つめられたら。
自分のことを好きなんじゃないかと、うっかり勘違いしかける。
あの目は、七瀬の涙は体に毒だ。
そうやって、たまに従順になるわりに……さりげなく『先輩』呼びに戻してたな。
七瀬に関しては、ほとんど思い通りに行かないことばかりだ。
気が強いフリをして、意外と泣き虫なくせに。



