軽く笑みを浮かべる藤川。
だけどその目は全く笑っていない。
男は緊張に顔を強張らせたまま、たどたどしく答える。
「名前、は……。灰色、の」
「……またあいつか」
不愉快を隠さず、藤川は吐き捨てる。
この前うちの高校に忍び込んでいた、灰色メッシュのことだろうか。
伯王の制服を借りて着ていただけで、本当は蒼生高の人間だったはず。
「ところで。いつまで、その汚い手で七瀬に触ってるのかな」
妙に優しい声を出す藤川を見て、急に慌て出す男。
私を盾にするかのように、ドンと背中を突き飛ばしたあと、転びそうな勢いで逃げていった。
「っ……」
「七瀬っ、大丈夫か?」
床に叩きつけられる前に、藤川が私の体を受け止める。
「……大丈夫」
背中は鈍い痛みがあるけど、それ以外は何ともない。
それよりも藤川に抱きしめられる形になっていることが異常で。
心臓が壊れそうなほど激しい音を立てている。
「追いかけるか? 海里」
今まで見守っていただけの椎名深影がようやく口を開いた。
「いや、いい。あいつ一人潰した所で大して変わりはしない」



