心の中に、ポッカリ穴が空いてしまってるのを感じながら、俺は仕事に打ち込んだ。そうするしかなかった。俺の横には、右も左もわからず、俺を頼りにしている井口がいる。


こいつが今、どんなに心細い思いをしているかは、2年前に、自分が体験して、よくわかっている。俺がプライベートで心乱して、そんな後輩を余計に不安にさせることなど許されない。


去年の三嶋に比べたら、ちょっと頼りない井口だが、それでも、一昨年の自分とは、どっこいどっこいだろう。


三嶋はちょっとイレギュラーだったが、金澤さんなど歴代の先輩を見ても、うちの部署は3年が1つの目安。俺のラウンダーとしての生活も、今年が区切りの可能性が高い。


1つの集大成のつもりで、井口を1人前にしていこうと思う。


そして、この日は業務が終わったあと、井口を呑みに誘った。三嶋は女子だから、やっぱり2人きりで、誘うのは気が引けたが、その点は気楽だ。


懐具合の問題もあるし、井口も毎日じゃ気づまりだろうから、適度に居残り授業もやって、鍛えて行こうと思う。


一通り、反省会みたいな話をして、俺達が注文した料理に手をつけ始めると、俺の携帯が震えた。着信者を見れば、やっぱり・・・


「もしもし。」


『ハ〜イ、元気?』


「何が『ハ〜イ』だ。」


『今、なにしてるの?』


「井口と呑んでる。」


『え、いいなぁ。私も行こうかな?』


「バカ、本社からここまで何分かかると思ってるんだ。お前が着くころには帰る時間だ。」


『なんだ、つまんない。』


全く、本当にコイツ異動したのかなと思うくらい、毎日三嶋の声を聞いてる気がする。


このあと、少しバカ話をして、電話を切ると、井口が話かけて来る。


「三嶋先輩ですか?」


「ああ。」


「先輩達、本当に仲いいですよね。」


「なんか腐れ縁みたいになりつつあるのは確かだな。」


苦笑いで、俺は答える。


でも、本当はわかってる。三嶋は気を遣ってくれてるんだ。俺はアイツに桜井さんとの顛末を話した。責任を感じているアイツには話してやらなきゃいけなかった、お前のせいじゃないからって。なのに、アイツはそれからも、毎日電話して来てくれる。


考えてみれば変な話で、俺は三嶋を振ってるんだから。振られたアイツが振った俺を一所懸命、気にかけてくれるなんて、申し訳ない話だよな。


でも、今の俺が、アイツの明るい声に癒やされてるのは、確かなことだった。