唖然としている時間はそんなに長くは続かなかった。


トートバッグの中のソレが激しく身動きしはじめたのだ。


ギャーギャーと声を上げている。


「なに? どうしたの?」


そう言ってトートバッグの中をのぞき込もうとすると、すぐに外へ出てきてしまった。


止める暇もなく、バイクの運転手へと駆け寄っていくソレ。


血の匂いをかぎ取ったのだ。


コンクリートに広がる血をじゅるじゅると音を立てて飲んでいく。


こんなに人目があるのに、消えていく血に気が付く野次馬たちは誰もいない。


みんな救急車や警察を呼ぶのに大忙しだ。


「今日の晩ご飯はこれで大丈夫かな」


あたしは1人、そう呟いたのだった。