麻美の言う “あれ” とは期末テストの返却日のことだ。
侑吏くんが『誰に誘われても乗らねーから』と、そうはっきり宣言した日。
そして、あの日以来、本当に女の子の誘いを全部断っているらしい。
今まであんなに所構わずいちゃいちゃしていたくせに。
「まるで別人よねー。何か裏があると思わない?」
楽しげに口角を上げる麻美。
「う、裏?」
「そう」
「真面目にしようって心変わりしただけじゃないの?」
「佐和くんがそんな心変わりすると思う?」
麻美の言葉に一瞬逡巡したものの。
「思わない」
即答。
あまりにもきっぱりと言い放った私に、麻美が吹き出した。
ひとしきり麻美が笑い尽くすのを待って、口を開く。
「でも、他に理由なんて思いつかないし」
「いやあ、あるでしょうよ」
「え?」
確信めいた口調に瞠目する。
麻美は得意げにふふん、と鼻を鳴らして。
「男の行動が急に変わるなんてね、古今東西その理由は一つしかないの」
「……?」
「恋よ、恋。色恋」
「は?」
思わず声が漏れた。
そんな私の様子などお構いなく麻美は言葉を続ける。
「おおよそ、本命の女でも現れたんでしょ」
本命の……。