自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-

「セシリア様、今日はお加減がお悪いのでしょうか……?」

靴屋が疑問に思って問いかければ、セシリアは冷たい声で答える。

「悪いところなどありませんわ。これがいつものわたくしよ。そんなことより、早くデザイン画を見せなさい」


悪役令嬢らしい話し方ができるようにと、昨夜セシリアは、侍女たちの助けを借りて特訓した。

こう言われたら、こう答えようという会話マニュアルまで作り、高慢な口調と態度を一夜漬けで身につけたのだ。


その努力のかいあってか、靴屋の主人は「も、申し訳ございません」と焦り顔でスケッチブックを鞄から出し、ページを開いてテーブルに置く。

右隣に立つツルリーが、それを手に取り、「セシリア様、どうぞ」と硬い表情を作って手渡した。


そこには、先が細めで流麗なラインのパンプスが描かれている。

サロンパーティーには淡いピンク色のドレスを着ていくとあらかじめ話しておいたので、靴屋はそれに合わせてパンプスの絵を濃いピンクにしたようだ。

ヒールの上部の革には、さりげない花刺繍が施されて可愛らしく、セシリアの好むデザインである。