自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-

翌日、街の教会の鐘の音が正午を知らせてから一時間ほど過ぎた頃に、靴屋、コルドニエの主人がやってきた。

王城の一階、南棟の応接室に靴屋を通し、セシリアは肘掛け付きの椅子に足を組んで偉そうに座っている。

ふたりの侍女がセシリアを挟むように左右に立ち、テーブルの向かいの長椅子に腰掛けているのは靴屋の主人。


彼は木綿の貫頭衣にポケットのたくさんついた茶色のベストとズボンという職人風の衣服の上に、小綺麗なジャケットを羽織っている。

一見して簡素な出で立ちであるが、黒い革靴はさすが老舗靴屋と言うべき立派なものであった。

四角い顔で丸い鼻の下には密度の濃い髭を蓄えているせいか、四十一歳という、その年齢より五歳ほど老けて見えた。


この応接室に彼が入ったのは、三分ほど前のことで、それからずっと不思議そうな顔をしている。

なにが不思議なのかといえば、セシリアの態度だ。

コルドニエの主人は何年も前から、こうして靴を作るためにセシリアと面会しているが、王女はいつでもにこやかで優しく対応してくれた。

それが今日はなぜか横柄な態度で、鼻先を斜め上にツンと向け、人を見下すような目をしている。