弟は目を瞬かせ、王妃は紅茶にむせてしまい、「どうしたの!?」と驚いた様子でセシリアに問いかけた。

「あっ、ごめんなさい」と大きな声を出したことを詫びた彼女であったが、申し訳なさを感じるよりも今は、ひらめいたことに興奮し、デザートを半分残して立ち上がった。


「今すぐにやらなければならないことを思いついたの。お母様、エドワード、ごめんなさい。お先に失礼するわ!」


膝にかけていたナプキンを落として踏んでしまったことにも気づかないセシリアは、メイドが開けてくれたドアから廊下へと飛び出していく。


「まだまだ子供っぽいところがあるようね。嫁ぎ先でうまくやっていけるのかしら……」


そんな王妃の呟きは、セシリアの耳まで届かない。

そのまま自室まで駆け戻った彼女は、ドアを勢いよく開けて、侍女の名を呼ぶ。


「ツルリー、カメリー、手伝ってもらいたいことがあるの!」


セシリアが興奮しているのは、悪事を働くべき、ふたり目のターゲットを見つけたからである。

それは、明日、デザイン画を持ってくる予定のコルドニエの主人である。

コルドニエは王家御用達の老舗靴屋で、いつも最高の靴を作ってくれるが、今回は難癖つけて靴屋の主人を困らせようと、セシリアは考えていた。

何度も作り直しをさせた挙句に、なにか、悪役令嬢に相応しいひどい言葉を浴びせて、靴屋のプライドを傷つけるのだ。

純粋な心のセシリアにとっては、それはかなり悪いことのように感じていた。