突き放すようなことを言われてしまい、セシリアの顔は曇る。

しかしながら、その後に付け足された王妃の言葉には、娘を想う確かな愛情が込められていた。


「セシリア、よく聞いて。わたくしはあなたの味方よ。まずは自分で障壁に立ち向かいなさい。それでも壁が崩れずあなたの行く手を塞いでいるのなら、その時は遠慮なく相談して。母として、その壁を、木っ端微塵に破壊してあげるわ」

「お、お母様……」


ニッコリとした王妃の笑顔は、時と場合により恐ろしく見える。

破壊という言葉と合わせて、母を畏怖するセシリアであったが、同時に温かな喜びにも包まれていた。


王妃は強く賢く、優しい人でもある。

セシリアは、父から清く正しい理想を教えられ、母からは現実的なアドバイスをもらって、貴族社会の暗闇に飲まれることなくまっすぐに育ってきた。

国王と王妃を色に例えるなら、白と黒だ。

両方とも頂点に立つ、崇高な色である。


父は、皆に親切にすれば回り回って自分に返ってくると言うけれど、母は違う。

貴族が集まる場では、ひとりひとりの特徴や注意点、弱点を娘に教え、どう接するべきかを、お手本を見せて教えてくれた。

その対応の中には、トゲを感じさせる言動も少なからずあったように思う。

全ては自分たちの身を守るためであり、王家が他貴族の上に君臨するための術である。

王妃は、清楚で可憐なその見た目とは違い、中身は随分とたくましい。

残念ながら、王妃の教えを実行するには、心が清純すぎるセシリアであったが、母のような強さがほしいと長年憧れてきたのであった。