母は厳しい人である。

幼い頃は甘えさせてくれたが、勉学に励まねばならない年頃になれば、わがままを許してくれなくなった。

この国の王女として、いつか嫁ぐときに、私が恥ずかしい思いをしないようにと、厳しく育てられたのだ。

それは愛情ゆえのことだと信じているので、反発することなく母親を敬愛してきたセシリアであるが、同時に悩み事を相談しにくい関係でもあった。


前菜の皿が下げられ、目の前にはスープの皿が出される。

銀のスプーンを手に取ったセシリアは、作り笑顔を母に向け、困り果てている気持ちを隠そうとする。


「日々、考えることはありますが、わたくしは大丈夫です。ご心配いりませんわ」


すると王妃は真顔になり、娘をじっと見つめる。

母の琥珀色の大きな瞳には、迫力がある。

思わず気圧されそうになり、返事の仕方を間違えたのかと不安になるセシリアであったが、王妃は口元に笑みを取り戻して、軽く頷いた。

「その笑顔は作り物ね」と見破られ、「悩み事があるのはわかったわ」と気づかれてしまう。

けれども問い詰められることはない。


「すぐに相談しないのは、いい判断よ。まずは自分で解決策を考え実行すること。最初から人を頼るような弱い娘に育てた覚えはないわ」

「はい、お母様の仰る通りです……」