それまでは、ぼんやりと前菜を口に運んでいたセシリアであったが、母と弟の会話にクロードの名前が出されたことで、注意が向く。


(エドワードはいいわね。剣の稽古という名目で、クロードさんと交流できるんですもの。私も男に生まれたかったわ。そうすれば、お嫁にも行かずにすむのよね……)


食事の手を止めて、羨ましく弟を見つめていたら、母の視線が自分に向けられたのを感じた。

「セシリア、どうしたの? なにか言いたそうね」と問われる。

「あ……」と小さな声を漏らし、返事に困って視線を泳がせれば、「悩み事でもあるの?」と優しい声をかけてもらえた。


(お母様に相談してみようかしら。結婚は嫌だという気持ちを打ち明ければ、お母様からお父様に、上手に話してくださるかもしれないわ……)

そんな甘えた考えが浮かんできたセシリアであったが、それは駄目だと、すぐに思い直す。

(きっと他国に嫁ぐことに怖気付いたと思われ、情けないと呆れられてしまうわ。王女に生まれた運命だと、説得されるかもしれない)