国王はサルセル王太子を高く評価しており、小国ながらも長年、平和を維持しているカナール王国へ娘を嫁がせることに前向きであるようだ。

まだ正式に婚約したわけではないのだが、この分では、トントン拍子に婚姻の儀までの日取りが決められてしまいそうである。


(会ったこともない人と結婚するなんて、怖いわ。ここを出て、見知らぬ遠い国で暮らすのも嫌よ……)


セシリアは胸が締めつけられるような苦痛を覚えているが、それを言葉にできない事情があった。

彼女には、ひとつ年上の姉と、三つ年下の弟がいる。

昨年、第一王女である姉が他国へ嫁いだため、次は自分の番であるとは感じていた。

王女として生を受けた日から、両親や周囲の者たちに慈しまれ、裕福な暮らしと最上級の教育を施してもらったのだ。

その恩に報いるべく、国のためになる結婚をしなければならないと承知していた。

セシリアが口に出してサルセル王太子を拒めば、父がこれまで地道に築いてきた、カナール王国との友好関係を壊してしまうことだろう。

それを思えば、嫌だと言えるはずがない。

それに加えて、両親に口答えできるような強気な性格でないことも、じっと耐えている理由であった。