使者の口振りからすると、どうやら本題は、カナール王国の国王ではなく、王太子からの用事の方であるようだ。

椅子の横のサイドテーブル上には大きく薄い荷物が置かれていて、それを取り上げた使者は、ゆっくりと慎重に包み紙を開く。

すると中から、豪華な額縁に入れられた一枚の絵が現れた。


「お約束しておりました、サルセル王太子の肖像画でございます。どうぞお受け取りくださいませ」


片腕ほどの横幅のある肖像画は、執事を介して、国王の手に渡る。

膝に額縁をのせて、じっくりと眺める国王は満足げな顔をして頷くと、左隣に座る妻に問いかけた。


「オリビアは面識がなかったな? サルセル王太子の印象はどうだい? 彼は真面目で優秀、実に好感のもてる青年なんだ」

「まぁ、そうですの。とても優しそうな目をした貴公子ですわね。わたくしは安心いたしました」


横から肖像画を覗き込んでいた王妃が、微笑んでそう答えると、国王は嬉しそうに目を細める。

それから肖像画は一旦執事に戻され、今度は王妃の左隣へ。

国王夫妻と使者の間の、ひとり掛けの椅子には、若い娘が大人しく座っており、国王が彼女に声をかける。


「セシリアも拝見しなさい。サルセル王太子は、お前の生涯の伴侶となられる青年だ」