自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-

森に涼しい風が吹き抜ける。

クロードに厳しい視線をぶつけていた国王であったが、急に空を仰ぐと、フッと笑った。


「“命を賭けるに値する愛”か……。我が妃、オリビアにも、かつて同じことを言われた」


懐かしげに過去を振り返っているような国王は、若かりし頃の出来事を語る。

自分が過ちをおかそうとしていた時に、婚約前の、まだ公爵令嬢であった妻に救われたのだと打ち明けた。

王妃は文字通り命懸けで国王の目を覚まさせてくれて、その時に負った刀傷が、両手の指の関節に、今でもくっきりと残されているのだと。


それを聞いたセシリアは、ハッとしていた。

母の白く滑らかな両手に、茶色い線のような傷跡があるのは知っている。

そのせいで母は、公の場ではいつもシルクの手袋をはめているのだ。


子供の頃に、どうしたのかと尋ねたことがあったが、母はなんてことない顔をして、『昔、少し怪我をしただけよ。気にするようなものではないわ』とサラリと答えただけであった。

母が父の妃となるまで、ライバル令嬢たちと熾烈な争いが繰り広げられたという話は、噂に聞いたことがあったけれど、命を賭けるほどの出来事があったとは……。

母は強い人だと常々感じてきたセシリアの認識は、間違えていないようである。