自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-

早口でそう言ったトワルは、観客席に向き直ると、美声を響かせる。


「私の胸を焦がすのは〜、麗しの君の白きうなじ〜」


トワルが催促するようにイザベルを見つめたら、彼女は必死の表情で歌いだした。

開演前は、『無理強いされたって歌わないわよ』と強気に宣言していたイザベルであったが、オペラが失敗に終わると脅されては、逃げるわけにいかないと思ったようだ。

緊張と戸惑い、羞恥に焦りなど、負の感情がいっぺんに押し寄せているイザベルを見て、セシリアは真後ろでニンマリとしている。


(イザベルがとても困っているわ。今回は上手に悪事を働けたんじゃないかしら? これで、悪役令嬢になれたと思っていいわよね……)


親友を罠にはめて困らせるだけなら、確かに悪い娘だと言えよう。

けれども、セシリアの思惑通りにはいかないようだ。


歌っているうちに、イザベルの表情が和らいできた。

緊張や焦りが徐々に引いて、今はうっとりと夢見心地の様子である。


自分の肩を抱き、愛しげに見つめて、朗々と愛を歌い上げているのは、憧れてやまない花形役者のトワルだ。

イザベルが彼を目当てに歌劇場に足を運んだのは、この一年で五十回ほどもあった。

他の一般客と同じようにイザベルもただのファンであり、想いは一方通行で言葉も交わしたことがなかったのだから、この特別な状況に嬉しくならないはずはなかった。