自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-

イザベルは、横目でセシリアを睨んでいる。

そう聞くということは、セシリアの企みに、少しは関心を持ったようである。

けれどもセシリアは、それ以上、教えない。

「ほら、幕が開くわ」と斜め下にある舞台を指差し、ウフフと笑っただけであった。


座席数が千六百ほどのホールは、八割ほどの客入りである。

照明が落とされると、ザワザワとした話し声がピタリとやみ、幕が上がった舞台には、主役の男性役者が登場した。

容姿端麗で長身、がっしりと逞しい体格をしている彼は、エストラード歌劇団の花形役者の、トワル・ドゥ・フォン、二十五歳だ。

客席に若い娘の姿が多く見えるのは、ひとえにトワルの女性人気によるものであろう。


今日の舞台の演目は、『ポーブル大尉』。

トワル演じるポーブル大尉は、黒い軍服を纏っている。

腰のサーベルを抜き、先陣を切って勇ましく敵兵と戦いだしたかと思ったら、スポットライトが彼だけに当てられて、突然、妻への愛の歌を歌い始めた。


舞台下には二十五人編成のオーケストラがいて、その演奏にトワルのテノールの美声が重なる。

誰もがうっとりと聞き入っており、先ほどまで不愉快そうにしていたイザベルも、今は頬を染めて舞台に釘づけになっていた。