この屋敷の二階にある小ホールの床は大理石張りで、三人のメイドが床掃除を終えて廊下に出てきた後に、セシリアはこっそりと忍び込んだ。

一見して綺麗な床に、ふたりの侍女とバケツの水をぶちまけ、『全然綺麗になっていないじゃない。掃除をやり直しなさい!』と言うつもりであったのだが……。

小ホールに呼び戻されたメイド三人は、水浸しの床を見てもショックを受けることも怒ることもなく、セシリアに笑顔を向けてこう言ったのだ。


『まぁ、油汚れが浮き上がっておりますわ!』

『こんなに汚れが残っていたなんて、気づきませんでした。思いきり水を撒いた方が綺麗にできるものなのですね。掃除の仕方をお教えくださいましてありがとうございます』

『お優しいセシリア様のおかけで、王妃殿下に叱られずに済みそうです。感謝いたします!』


邪魔したつもりが掃除の手伝いをしてしまい、悪事の計画はあえなく失敗となった。

それならばとセシリアは二日前、王城医師の助手に嫌がらせをしようと企んだ。


助手は二十歳の青年で、医学について勉強中の身である。

医師に指示され、胃薬の原料となる薬草を野山で採ってきた彼は、裏庭でそれを乾燥させていた。

その様子を物陰からこっそり覗いていたセシリアは、助手が屋敷内に戻った隙をついて、吊るしてあった薬草を全て外し、焚き火にくべたのだ。