長い長い、待ちぼうけ。
その間、ずっと彼女のことを考えていた。

素直で純粋で笑顔が可愛い、俺の、俺だけの彼女。
だけど思い出せるのは、最後の泣き疲れて眠ってしまった彼女の顔ばかり。

ここでも待ち合わせで、いつも遅れるのは俺のほう。
なのに彼女は遠目からでもわかるくらいの笑顔で、俺を迎えてくれた。
どんな気持ちで待っていてくれたのかなんて、ここに繋がれるまで考えたこともなかった。

……来てさえくれたらいい。
あの日を乗り越えて、彼女がこの水時計前に来てくれるだけで。
もう俺だけのものじゃなくても、君が笑っていられるならいい。
悲しみを癒してくれる誰かと、幸せになってくれたら、それでいいんだ。

ようやく、そう思えるようになった今日。

彼女はやって来た。

『きっと幸せになれるよ、由利』

強がりに似た言葉は、俺の足についた鎖を砕き、代わりのように背中に羽をはやす。
まるで水時計の天使のように。

ありがとう。五年もの長い間、俺のことを思ってくれて。
俺は君の苦しんだ五年を抱いたまま、逝く。

だから、君はもうすべて忘れて、幸せになってほしい。

『頼んだぞ。何があっても、由利から離れるんじゃないぞ』

自分がしたかったことを男に託し、天に昇る。
真っ暗闇に思えた空から、まるで花吹雪のように、雪がちらほらと降ってきた。


【Fin.】