彼女――安藤由利(あんどう ゆり)は同じ大学の一つ下の後輩だ。学部は違うけれど、大学図書館の蔵書点検のバイトで知り合った。
バイト期間は、お盆を含む十日間。本を記号番号通りに並べ直し、バーコードチェックをする。実際に存在する本がこれでわかるので、後はもともとの蔵書データと照合し、行方不明の本の抽出するのだ。

由利はミスが多くて、俺はそのチェックに奔走させられた。

「すみません、先輩、すみません」

今どき珍しい眼鏡女子で、真面目で一生懸命という言葉を体現しているようなやつだった。
賢いくせにちょっとどんくさいのだ。

「謝るくらいなら、一つでも終わらせろよ」

「はいっ」

本は重いし、書庫は広い。本を引き出しては戻す蔵書点検は、女の子にはつらい作業だっただろう。
実際、俺だって一日の終わりにはくたくただった。

「はぁ、まぶしい」

まだ日が落ちる前に外に出て、体を伸ばしながら、バイト仲間みんなで「街に出ようか」って言って盛り上がった。

「安藤ちゃん、水上といいコンビだったじゃん」

なんて言われて、真っ赤になった彼女が、あのとき、とてもかわいく思えて。

「フリーなら付き合う?」