よく、石橋を叩きすぎて破壊するって言うけど、もともとあたしは石橋を渡るのすら最初から諦めちゃうタイプだ。


『絶対無理。できっこない』って。


石橋を渡る勇気のある人が純粋にうらやましいけど、あたしは、どうしても橋を渡ろうとは思えない。


だって昨日、見ちゃったんだ。


夜中に家でテスト勉強してたとき、お母さんの寝室からゴソゴソ物音が聞こえてきた。


気になって様子を見に行ったら、お母さんが大きめのダンボール箱にせっせと服を詰めていて、不思議に思って声をかけた。


『なにしてるの? お母さん。こんな時間に衣替え?』


『あら、音がうるさかった? ごめんなさいね。ちょっとお父さんの荷物をまとめてたのよ』


『……そう』


家の中のあちこちには、まだお父さんの私物がいっぱい残っている。


でも正式に離婚が決まって、この家はもうお父さんの家じゃなくなるから、それらは置いておけない。


思い出も品物も全部持って、ここから立ち去らなきゃならない。


それが別れるってことなんだ。


『お父さんが取りに来たときに、すぐ運び出せるようにしておかないとね』


事務的な口調で言って、忙しく手を動かしているお母さんに向かって、心の中で問いかける。


ねえお母さん。その作業つらくない? 悲しくない?