雄太に言われた通り教室で制服に着替えて待っていると、しばらくして雄太が迎えに来てくれた。


「待たせたな。じゃあ帰るか」


「うん!」


元気に返事をして、リュックを背負って雄太の元へ子どもみたいに駆け寄った。


ふたり並んで廊下を歩きながら、あたしはフワフワ浮き立つ気持ちを抑えるのが大変だ。


階段を下りる間も、なんだか雲の上を歩いてるみたいで足元が危なっかしい。


一緒に帰れるだけでこんなに幸せな気分になれるなんて、あたしってお手軽な性格だなあ。


それに、途中ですれ違う生徒たちの視線が気になって仕方ないんだ。


だってさ、こうして一緒に下校するのってさ、なんかカップルっぽくない?


知らない人が見たら、あたしたちカップルに見えるかも!


実際そうじゃないのは自分が一番知ってるけど、やっぱりうれしい。


気分だけでもカップル感を味わうのは自由だよね? こっそり楽しんじゃってもいいよね?


「どうした? さっきからやけに無口じゃね?」


ニヤニヤしそうな唇をギュッと閉じてガマンしていたら、雄太に不思議そうに聞かれて、慌てて「なんでもないよ」って答えた。


まさか『恋人ごっこがうれしくて勝手に幸福感に浸ってます』なんて、言えない。


雄太はどう思ってるんだろ? 周りから誤解されるかもとか、考えたりしないのかな?


一緒に帰れてうれしいとか、照れくさいとか、ちょっとは思ってくれているかな?


あたしの半分でもいいから意識してくれないかな?


そんな願いを込めながら、隣で靴を履き替えている雄太を見上げると、その表情はまったく普段通り。


周りの視線を意識しているのかどうかなんて、ぜんぜん読めない。


読めないからこそホッとしたり、でも少しだけ物足りなくも感じたり。


どっちつかずの気持ちがなんだかくすぐったくて、あたしはリュックのショルダーを握る手に力を込めた。