決して壊れも失われもしない宝物?


それがあたしなの? ねえお父さん、お母さん?


「……そうね。お母さんもそう思う。瑞樹の存在がそう信じさせてくれるの」


赤く潤んだ両目でお父さんをじっと見つめていたお母さんが、パチパチと瞬きをしながらそう言った。


そして目尻を指先で拭って、ニコリと微笑む。


「お父さんと結ばれたこと、お母さん後悔しないわ」


「お母さん、それ本当?」


「もちろんよ。瑞樹、生まれてきてくれてありがとう」


両目の奥から熱く潤んだ衝動が押し寄せてきて、あたしは震える両手で口元を覆った。


視界全体が一気にボヤけて、顔が限界まで歪んで、もう我慢できない。


体中に満ちた熱い波が、ぜんぶ涙になって、両目からドッとほとばしった。


「うっ……。う、うえぇー!」


ノドの奥から込み上げる大きな固まりが、嗚咽になって勢いよく口から飛び出てくる。


これまでのすべてを吐き出すようにして、あたしは赤ん坊みたいに思い切り泣いた。


ずっと言ってほしかったの。ふたりが結ばれて家族になったことを、後悔はしていないって。


だってあたしは、お父さんとお母さんが結ばれて、この世に生まれてきたから。


ふたりに、『結婚しなければよかった』と後悔されてしまったら、その結婚によって生まれたあたしも否定されることになる。


あたしが生まれたことは間違いだったの?


そうだと言うなら、あたしがこれから生きていく意味は?


だって、間違いの上になにを積み重ねたところで、いつかはすべて壊れてしまう。


両親が、最後には離婚したみたいに。


そう思うたびに、今にも足元がガラガラ崩壊していくような気がして、すごくすごく怖かった。


自分の命の価値や未来があやふやで、不確かなものにしか思えなかった。


だからどうしても、家族になってよかったって言ってほしかった。


けど家族を終わらせた本人たちから、そんなこと言ってもらえるはずがないと思い込んでいたんだ。


でもあたしは、宝物なんだね?


それならあたしを生んでくれたお父さんとお母さんの存在も、宝物だね。


三人ですごして来た日々も、間違いなんかじゃないよね?