「待って! 待ってください橋元先輩!」


待たない!


なぜかあたしの後を追いかけながら、妙にあせった声で呼びかけてくる彼女に、心の中で叫び返した。


どうして待つ必要があるの!?  恋の勝者のあなたが、敗者のあたしになんの用があるの!?


お願いだから放っておいて!


「先輩、待って! 大事な話があるんです!」


「話ならもういい! もう痛いくらいわかったから!」


「お願いですから話を聞いて! 止まってください!」


「嫌! 絶対に止まらな……」


―― ズルッ!


全力で走っていた足元が、柔らかいなにかを踏んだと悟った瞬間、あたしの体が仰向けに宙に浮かんだ。


なにが起こったのか理解不能なまま、視界一面が空の青色に染まる。


その青色の中心に、小さな黄色の塊がふわりと舞っていた。


あれって……バナナの、皮?


―― ゴーン!


後頭部に鈍い振動が走って、目の前に火花が散って、脳がジーンと痺れる。


アスファルトに寝そべったまま身動きできないあたしの耳に、周囲の騒ぎ声が聞こえた。